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貧乏でも陽気な夫婦がいました。
共働きでしたが収入は少なく、生活は決して楽ではありません。
食費を切り詰めても、小さな部屋の家賃を払うのがやっと。
それでも、ひょうきんで気が合う夫婦は仲良く幸せに暮らしていました。
今年ももうすぐクリスマスイブがやってきます。
その日は忙しく二人とも仕事、貧乏暇なしです。
これまでは毎年プレゼントを贈り合っていましたが。
西洋の文化なんて関係ないよね、みたいなノリから。
面倒だし、今年は普段通りで過ごそうよ、と自然な流れで―。
特に何もしないことになりました。
そして、イブの夜―。
特に妻の帰りが遅くなりました。
冷たい風に吹かれながら家に向かう途中。
少しくらいクリスマスらしいものがあった方がいいかしら?
ローストチキンでも買おうかな…と思い立ちました。
ちょっと遠回りをしてチキンを買い、足取りは軽くなります。
「ただいま~」
玄関を開けると、家の中はしんと静まり返っていました。
まだ帰ってないのかな?
部屋に入って明かりをつけると、目に飛び込んできたのは―。
半開きのドアの向こうから覗く足。
誰かが倒れているようです。
恐る恐る近づくと、それはなんと夫。
仰向けで倒れた状態、しかも、胸のあたりが真っ赤に染まっています。
「強盗に襲われたの? なにこれ!? どうして…」
妻は夫を揺り動かしましたが、ピクリとも動きません。
「し…死んでる?」
声を震わせ、愕然としていたのも束の間。
すぐに決意しました。
「だったら…私もあなたのところへ逝くわ!」
そう言って、近くにあった錠剤を一気に口に流し込んだのです。
その場に突っ伏した時でした。
「待て!」と起き上がって叫ぶ夫の声。
「僕は生きてる! これはサプライズの演出だったんだー!」
しかし、時すでに遅し。
妻はパタリと倒れてしまっていました。
夫は顔面蒼白。
「ああ…なんてことしたんだ、俺は…俺は」と、頭を抱えてへたり込みます。
すると、倒れたはずの妻が、突然吹き出して笑い出しました。
「なーんてね、そうだと思った! 今のは私からのサプライズよ! これ、ラムネなの。安心して!」
その言葉を聞いて、夫は目を丸くし、その後は二人で大笑いしました。
妻は元気よく立ち上がります。
「ローストチキン買ってきたの、食べよう」
夫は冷蔵庫からクリスマスケーキを取り出します。
やはり考えることは同じようです。
チキンとケーキで、二人はささやかなクリスマスディナーを楽しみました。
「二人が無事にうちに帰ってきて一緒にいられること、これが何よりのプレゼントだな」
夫がしみじみ言い、妻は頷いて微笑みました。
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