落果

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 これは、友人から聞いた話なんだが。  男二人でスイーツバイキング。その上、SNSで知り合った相手と初オフ。  そんな、正直何を話せば良いのか分からない状況下で、彼――〘サイカ〙はそう、伝聞体で語り始めた。  他に話題も見つかる訳じゃなし、軽く頷きつつ、その話に耳を傾ける。  こんな話だった。        ◇  俺の友人で、まあ、仮に――綺良、としておこう。女子が居て。  その子、あー、……病気で、ちっと長い夏休み中でな。家で、静養していたらしいんだ。ただ、その子、とかく、食後に、フルーツを出されるのが嫌いなんだ。  でもまあ、親としては、手軽に摂れるし、何よりビタミンが豊富、ということで、毎食それを供してくる。その子はとかく、それがイヤでな。  まあ、今考えると勿体無い話なんだがな、……彼女は一階のお縁の裏に、それらを毎食終わる毎に、捨ててしまっていたらしいんだ。  ……うん、勿体無いよなあ。ペットにでもあげればって? ダメダメ。夏だから、ブドウとかもあったらしいんだ。贅沢な話だぜ。メロンなんて、犬畜生に食わせるにはなあ。ちとお高級すぎるだろう。  そんなわけで、彼女は毎回、色んな果物を縁側に遣っていたらしいんだが――ある晩、妙なことが起きた。  ――ああ、その今飲んでるレモネード、美味いよな。俺もさっき、取ってきた。何? その櫛切りレモン、残すのかい? 俺、貰っても良いかな。……何、ええと、――フードロスに気を遣っちゃう性質でね。ついつい、目が光っちまうんだ。  ――ん、やっぱり美味い。唐揚げの添え物まで彼女、残してたってんだから、中々ね、徹底しちゃってるだろう。そういう子だった。  梨が落ちるのをね、見ちまった、んだと。……ああ、その子の昔の話ね。  家族――仕事で忙しくて、滅多に会えない御両親と、梨狩りに出向いた時だ。  自分が、おいしそうに熟れた梨ばっかりを見て選んで収穫していた横で、ごとっ、て、音がしたんだ。  そちらを見るだろう。何かと思って。  そしたらね。  ――何か分かんないけど、色の変って水膨れみたいになった奴が、地面でころころ、転がってたんだ。  それを見て以来、何か、無理になっちまったんだと。  ――何? 辛気臭い話だなって? そうなのか、悪かったね。まあ、俺にとっては、大事な話なんだ、これが。ご不快かもしれないが、どうにか最後まで聴いちゃってくれ。  どこまで話したっけか。……そう、妙なことが起きた、ってとこだな。ちゃんと聴いてくれているみたいで嬉しいよ。〘八切り〙君。じゃあ、そこから。  ――妙なことが起きた。  ある晩、いつものように食後のフルーツを――その時はたしか、早生のミカンだったかな――をそのまま、皮の付いたままでお縁の下に、ころりと転がして、彼女が寝る支度をしていた時だった。  犬がね、ワンワン吠えるんだ。
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