第一章:前方彼氏面男子、鳴神隼の最初の推理

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「あの」 「なんだよ」 「その、佐藤先輩に呼ばれて……」 「あぁ、勧誘されたのか」  男子に「あいつに捕まって大変だな」と憐れむような目を向けられた。それは隣に立つ隼を見てからなのだが、彼はなんとなく察したのだろう。「あいつは面食いだからな」と跳ねた短い黒髪をがしがしと掻く。 「えっと、その……」 「崎野悟(さきのさとる)。好きに呼べ」 「あ、おれ……」 「知ってる。鳴神に懐かれてる緑川って有名だから」  有名なのか、自分はと頬を引きつらせれば、「目立つからな」と隼を指さした。隼が女子に人気があり、噂になっているのを耳にしたことがあるようだ。  他の学科でもそうなのだから、そんな男といつも一緒にいる琉唯も目立つというわけだった。  それはそうかと納得したように頷けば、千鶴に「どんまい」と励まされる。なら、助けてくれと思うのだが、無理と即答されてしまった。 「俺の傍に琉唯がいて何の問題があると?」 「……大変だな、緑川」 「まぁ、うん」  隼の理解できないといった表情に悟は同情するように琉唯に言う。もう慣れてしまったからいいんだと笑えば、「崎野くん」と声をかけられた。振り向けば三つ編みおさげにした女子と眼鏡をかけた男子が駆け寄ってくる。  二人はミステリー研究会のメンバーらしく、琉唯たちを不思議そうに見つめていた。悟が「部長の犠牲者」と隼を指差して喋れば、あぁと納得したように頷いている。それほどに佐藤結は面倒事を持ち込んでいるようだ。  女子は鈴木里奈(すずきりな)、男子は田中聡(たなかさとし)と自己紹介してくれた。二人は「大変だね」と悟と同じように同情してきたのだが、どれだけ結は面倒なことをサークルに持ち込んでいるのだろうか。  不安になって「なんか、佐藤さんって問題起こしたりしてるのか?」と聞いてみる。 「まぁ……」 「あの人は諦めが悪いから……」  男関係でいろいろあったのだろうなと、その会話だけで察せてしまう。あぁと琉唯が頷けば、隼が「琉唯」と呼んだ。
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