第一章:前方彼氏面男子、鳴神隼の最初の推理

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「佐藤と言ったか。彼女の本当の目的は俺だな?」 「…………」 「琉唯。それの沈黙は肯定にしかならない」  眉を寄せている隼の眼が怖い。琉唯はもう誤魔化すこともできずに黙るしかなかった。それがまた彼を苛立たせているのは分かっているけれど、言い訳やフォローが思いつかないのだから口を閉ざすしかない。  琉唯が喋らないと察してか隼は千鶴へと目を向けた。ぎろりと睨むように向けられた眼に「すみませんでした」と彼女は謝る。 「ひろくんから事情は聞いてるけどね! ひろくんが疲弊するぐらいには佐藤先輩って話を聞かない人らしいからさ!」 「ほう」 「時宮ちゃん! ストップ!」 「無理だって、諦めて!」  私は悪くないんですと、千鶴がぼろぼろと話すものだから全てを知った隼は小さく舌打ちした。あ、これは駄目かもしれない。琉唯は「隼、落ち着てくれ」と彼の手を握る。 「お前が悪く言われるのはおれは嫌だから。お願い」 「……琉唯。君は俺がそれに弱いことを知っていてやっているだろう」  はぁと琉唯のお願いに隼は溜息を零す。彼は琉唯からのお願いに弱いので、そう頼まれてしまうと無碍にはできない。分かっているからこそなのだが、琉唯だってこんなことは早々しない。  隼が悪く言われたくないのは本当なのだ。嘘ではないからそう頼んでいるというのを彼も理解している。だから、仕方ないと怒りを治めてくれた。 「話が終わったんならさっさと部屋入るぞ。鈴木、鍵貸してくれ」 「あ、はい。でも、佐藤先輩もう来てるんじゃないの? スペアしか残ってなかったけど」 「来てないから言ってんだろうが」  里奈から鍵を受け取った悟は開けようとして身体をドアにくっつけた。彼の身体で手元は見えないが、がちゃという鍵の音が鳴っている。ドアを開けられて室内に足を踏み入れた琉唯たちは固まった。  ホワイトボードの前でそれは倒れていた。赤い液体が床を濡らす。辿るように目を向けていれば、すらっとした足が見えて――腹部から血を流した身体を捉える。 「佐藤、先輩……」  聡の言葉にそれが佐藤結であることを皆が理解した。
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