第一章:前方彼氏面男子、鳴神隼の最初の推理

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「俺たちは誰も鍵がかかっているのを確認をしていない」 「……あ、そうだ」  そう。琉唯たちだけでなく、里奈も聡も誰もドアに触れて鍵がかかっている確認などしていなかった。鍵を開けた悟だけなのだ、そう証言するのは。  そこで琉唯は悟のドアを開けている様子を思い出した。確かドアに寄り掛かって手元を見せないようにしながら開けていたことを。 「確か手元が見えないようにドアに寄り掛かりながら鍵を開けてたよな」 「そういえば、そうだった。隠すみたいだったよね、あれ」  琉唯の言葉にそうそうと千鶴が思い出したように頷く。里奈も聡もそういえばといったふうに悟を見遣る。彼はなんだよと声を震わせていた、オレじゃないというように。  けれど、彼以外は鍵がかかっていたかの確認をしていない以上は密室は成立しない。田所刑事は「それは確認しないといけないな」と頷いた。 「そんなもの、証拠になるか!」 「なるほど。では、直接的に言わせてもらう。佐藤結は恐らく口を押さえられて殺害されている」  彼女の唇についていただろう赤いリップが擦れて口元についていたことから、口を押さえられた可能性があると隼は指摘した。ハンカチなどで押さえたのであればそれも証拠になりえるが、処分方法を考えなければならない。  前提条件として密室に見せかけるために鍵を開けるのは犯人でなければならない。そうなると捨てる時間というのも惜しいはずだ。  窓から捨てたなど警察が調べればすぐに分かってしまうし、持っていては怪しまれる。その場から動けない状況でどうやって口を塞いだのか。 「その手で口を押さえたのならば、彼女の口紅がついていたはずだ。手を拭っているのならば、君の衣類を調べれば痕跡が出る。そうしていないのならば……スペアの鍵についているんじゃないか?」  発色の良い赤いリップだからなと隼はぎろりと鋭い眼を向けた。悟はその目から逃れるように俯く。わなわなと震えながら言い返そうにも言葉が出ないように。それは負けを認めたかのようだった。  何の言い訳もしないという状況は彼が犯人である証言しているかのようだ。里奈はどうしてと信じられないといったふうに見つめている。少しの間だった、田所刑事が一歩、踏み込んだ時に悟は「あいつが悪いんだ!」と叫んだ。 「あいつがオレ以外を選んだのが悪い! なんで、オレじゃ駄目なんだよ! ふざけんなよ!」  どうやら彼は佐藤結に好意を寄せていたらしい。ずっと好きだったと喚き散らし始めて田所刑事が止めに入ろうとすれば、隼がはぁと苛立ったように息を吐いた。 「君は愚かだ」 「黙れ!」 「そんな理由で殺人を犯していいわけもないし、誰かに罪を着せていいなどない」 「そんなの……」 「煩い」  唸るような声だった。思わずびくりと肩が跳ねて、琉唯は隼を見遣る。彼の眼光が悟を射抜いた。 「君の妄言などに興味はない。好きだのなんだと勝手にしてしろ。ただし、琉唯を巻き込むな」  それは冷淡に、けれど低く。発せられた言葉に籠められた圧に悟は言い返そうにも返せない。隼の眼が許さない、猛禽類のそれが。  なんとくだらないことかと隼は「トリックを使うならもう少しよく考えろ」と呻れば、悟は唇を噛んで項垂れた。  それが止めになったのか、黙りこくってしまった彼に田所刑事が近づいて手錠をかけて、この事件は幕を下ろした。
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