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三.
「事件解決に協力してくれたことに感謝はするが、犯人を挑発するような行為はしないように」
「別にしていないが?」
「君ね……」
事件の第一発見者として聴取を受けるために警察署を訪れていた琉唯は苦く笑う。目の間では田所刑事がはぁと溜息を零し、隼は何が悪いといったふうに腕を組んでいた。
田所刑事は隼に事件解決の協力をしてくれたことに対して感謝はしていたが、彼の犯人への態度を注意していた。あれは挑発行為にあたり、危険であると言っているのだが、隼は平然と「そんなことはしていない」と返している。
刑事相手によくまぁ言い返せるものだなと琉唯は隼の豪胆さに感心してしまった。いや、してはいけないのだが。
「本当のことだったとしてもだね。あぁいった行為は慎むように」
「気にかけておこう」
「君ね……。そもそも、探偵ごっこのようなことをしてはいけないんだが……」
「していないし、首を突っ込むつもりもなかった」
探偵ごっこと言われて隼は「事件になど軽々しく首を突っ込むほど馬鹿ではない」と反論する。あれは警察が悪いのであって、自分に落ち度はないと。田所刑事は何を言っているんだと首を傾げている。
「手掛かりは分かりやすく落ちていたというのに、目撃情報だけで琉唯を容疑者に入れたのが悪い。相手も琉唯が口論していたのを知っていて罪を着せようとした可能性もあった。許されるわけがないだろう」
あんな簡単なものを見逃すのが悪いのだと刑事に堂々と言い切るものだから、隼には恐れるものがないのかもしれない。
田所刑事は眉を下げながら言葉を探している様子だ。頼むから刑事が大学生に言い負かされないでくれと琉唯は心中で突っ込む。
「だがね、犯人を煽るのはよくない」
「煽ってはいない。琉唯に被害があったから言ったまでだ」
「えっとね。恋人だか親友だが知らないけれど、緑川くんが好きなのは分かるが少しは冷静になりなさい」
「恋人ではないです、刑事さん」
「〝今は〟違うな」
琉唯が訂正するも、隼に追撃されてしまう。田所刑事はそれだけで察したようで、琉唯になんとも同情するような眼差しを向けてきた。そんな目になってしまうだろうなと琉唯は笑うしかない。
「俺は冷静に判断している」
「……まぁ、いい。探偵ごっこはしないように」
「俺は琉唯の為にしかしないので安心してほしい」
俺が推理するのは琉唯の為であり、他に興味はない。誰が死のうと犯人であろうと知ったことではないので、自ら事件に首を突っ込むことはしないと隼ははっきりと告げる。
それはもうはっきりと言うものだから、田所刑事はもう諦めたように「わかった」と匙を投げた。何せ、琉唯が絡めばまた推理すると言っているのだから彼は。
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