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「とんでもない男に好かれたな、緑川くん」
「これどうにかなりませんかね?」
「おじさんの経験上、こういったタイプの人間からは逃げられないな」
諦めなさいと肩を叩かれて琉唯はですよねと頷く。そんな琉唯に隼がなんとも不満そうにしているのだが、見なかったことにする。
「おじさんはちゃんと注意したからな。気を付けなさい。では、もう帰っていいよ」
「ありがとうございました、刑事さん」
琉唯は田所刑事に挨拶をして隼と共に警察署を出た。すぐに終わるはずだったのだが、隼への注意で長居してしまったなと琉唯が彼を見遣れば、じとりと見つめる目と合う。
うーん、見なかったことにはできなかったかと琉唯は仕方ないと「どうした」と問う。
「俺は君のためにしただけだ」
「それは分かっているよ。けど、犯人を煽ることはないだろ」
「…………」
「不満げにしても駄目だから」
むすっとしている隼に琉唯はどうしたものかと腕を組む。隼から向けられる好意というのを嫌だとは感じていない。だから、好きかと問われれば、好きなのだが、それはそれとして危ないことはしてほしくはなかった。
「お前がおれのために想ってくれてるのはいいんだけど、危険な目には遭ってほしくないんだ」
「琉唯。俺は君のためならば面倒なことでも解決しよう。それが例え、殺人事件であろうとも」
あれは君のためにやったことだ。さらりとなんでもないように言ってのけたこの前方彼氏面なイケメンを琉唯は眺めるしかない。
隼を止めることはできないのだろう。それほどに愛されているということを琉唯は実感した。やめるように説得するには彼を拒絶するのが一番なのだろうけれど、琉唯にはそれができなかった。彼の事を心配している自分がいるから。
「お前ってほんっと……。危ないことはするなよ」
「善処しよう」
「はぁ……。まぁ……でも、助けてくれたのは嬉しかった。ありがとう、隼」
ふわりと温かく笑む。琉唯の表情にゆっくりと隼の眼が開いて、口元を隠すように手を当てる。
「君は本当に反則が過ぎる……」
隼は感情を抑えるように肩を震わせていた。どうやら、彼のツボにはまったらしい。よく分からないなと琉唯は思いつつも、何度も見ている光景なので突っ込むことはしなかった。
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