第二章:占い館殺人事件

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   ***  占いの館『グリムファンタジア』は都心部の街中にあった。駅から徒歩十分と近く、裏側に位置するのだが洋館風にアレンジされたレンガ調の屋敷は目立っている。専属の占い師は個別の部屋をあてがわれており、そこで占いを行うようになっていた。  占い師によっては予約制だったりするのだが、そうではない場合もあるようで順番を待っている客がちらほらといる。そんな屋敷のエントランスホールに琉唯はいた。  琉唯たちを出迎えてくれたのは今川小百合(いまがわさゆり)という大学三年生の女子なのだが、まぁなんとも馴れ馴れしい。初対面だというのに態度はでかく、砕けた口調で話しかけてくる。自分たちは後輩なので口調に関しては気にしないのだが、驚くほどに一方的に喋るのだ。  琉唯と隼を見るや否や、「噂は聞いてる」とやれ、付き合ってるのか、どうして恋人じゃないのだとあれこれと聞いてきて、その勢いに若干だが気圧された。  隼に至っては露骨に不機嫌そうにしているので、彼の苦手な人種だったようだ。千鶴が「ごめん」と小声で謝っているが、彼女は悪くない。  明るく染めた茶髪をカールさせて、少しばかり派手な化粧をしている小百合は自分に自信があるようで、「私に恋人ができないのは運気が悪いせいだ!」と言っていた。  多分、他の要因もあると思うと琉唯は思ったけれど、機嫌を損ねて何を言われるか分からないので口には出さない。  小百合は琉唯に「確かに可愛い顔してるよねぇ」と食いついている。それがまた隼の気に入らないところなのか、ずっと琉唯の腰に手を回していた。落ち着けと言うように彼の手をぽんぽんと叩くが、不機嫌なオーラは消えない。 「ほんっと可愛い顔してるわね。恋人いないの?」 「いないですね」 「うわー、勿体無い! 立候補しようかしら」 「えっと……」 「そんな遠慮しないでよー。てか、あいつらおっそいわねぇ」 「えっと、占ってもらうほかの人ですよね?」 「そうそう。千鶴は知らないかも、私と同じ三年だし」  小百合はなんとも不満げに言う、遅いと。約束の時間を過ぎるとか、どういった神経をしているのだというように。といっても、まだ五分ぐらいしか過ぎていないのだが、彼女は待つというのが苦手なようだ。  最低でも五分前行動は当たり前という考えらしい。常識がないのかしらと少しばかり怒っていた。そこまでかと琉唯は思ったけれど、倍になって返ってきそうなので黙っておく。
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