第一章:前方彼氏面男子、鳴神隼の最初の推理

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 ***  琉唯は二年生に上がった今ではそこまで利用はしなくなったが、一年生の時は講義の空いた時間や、友人との待ち合わせのために南八雲大学附属図書館を利用していた。  鳴神隼はその図書館の常連であり、通っていれば知らない人はいない。琉唯は視界の端に彼を見止めるぐらいでそれほど興味はなかった。  同じ学科であるのだから噂を聞いたことがなかったわけではない。現に彼目当てで図書館にやってきては話しかけている女子大生というのは多かった。 「ねぇ。どうして無視するわけ! 聞こえてるでしょ!」  室内に響くのではという大きさの甲高い声に振り向けば、緩く巻かれた髪が目立つ女子大生がテーブルをだんっと叩くのが目に入った。彼女の目の前には分厚い本を捲っている隼の姿がある。  黙って本を読む姿というのは格好良く見えるもので、「今日もイケメンだな」と琉唯はのんきに眺めてしまう。  彼が本を読んでいる姿というのは様になっている。だから、彼に見惚れて女子大生の行動など忘れてしまいまそうになるのだが、またテーブルを叩かれて現実へと引き戻された。  二度目のテーブル叩きにやっと隼は分厚い本に向けられた眼を上げた。なんとも面倒げに、不愉快そうに。 「なんだろうか」 「暇でしょ? 一緒に遊ばない?」 「何故、暇だと決めつける」  隼が眉を寄せながら問い返す。やっと反応してくれたのが嬉しかったのか、可愛らしく話す女子大生が「だって本読んでるから……」と答えた瞬間、ぱんっと分厚い本が音を立てて閉じられた。 「君の本を読む理由が暇つぶしのためなのだろうが、一緒にしないでもらいたい。俺は本を読むために図書館を訪れている、暇ではない」  暇つぶしに本を読む行為を否定するつもりはないが、勝手に決めつけないでもらいたい。隼は冷たく、強めな口調で言うと嫌悪するような眼差しを向ける。  女子大生は少し固まっていたが我に返ると「そんな言い方しなくてもいいじゃない!」と、露骨に傷ついたといったふうに言い返した。不愉快そうな隼の態度がまた反感を買う。 「なんなの、その態度。ちょっと顔が良いからっていい気になってない?」 「なっていないが? 君の態度に呆れているだけだ」  此処はナンパや出会いの場でもないというのに邪な考えで声をかけてきた君に言われたくない。はっきりと告げられて女子大生は握っていた拳に力を籠めながら「酷い」と涙を溜めた瞳を向けた。  けれど、彼、鳴神隼には通用しない。他に何があると返されて、女子大生は睨みながら「調子に乗んなよ!」と声を張り上げ――彼の頬を叩いた。 「そうやって女をあしらって楽しいわけ? だいた……」 「五月蠅い」  五月蠅い。言葉を遮られた女子大生ははぁっと振り返る。
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