第二章:占い館殺人事件

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「今川小百合に持病はあっただろうか?」  静まる空気を裂くように隼が輝幸に問う。彼はえっと顔を上げて目を瞬かせてから、「いや、聞いたことない」と答えた。 「今川は自分で健康には自信があるって笑ってたし……発作とか持病を持ってるなんて聞いたことない」  彼女の性格ならば隠さずに話してくれると言う輝幸に、それはそうかもしれないと琉唯は思った。自分のことをだけでなく他人の事もべらべらと喋っていた彼女なら言いかねないなと。 「警察、すぐに来るって」  電話を終えた伊奈帆の手は震えている。彼女がスマートフォンを仕舞うのと同じく、館長を連れて真理恵がやってきた。少しばかり白髪の混じった老けた男性は倒れる小百合を見て声を詰まらせる。  隼が警察がもうすぐ来ることを伝えれば、館長は「すぐに他の方にも伝えよう」と部屋を出て行った。真理恵はその背を見送ってから小百合に近づいて「小百合さん」と囁いた、それは冷たくて。  目を伏せる真理恵に隼は輝幸に聞いた時と同じ質問をした。それに彼女は「聞いたことないわ」と返す。 「ならば、病気の可能性は低い」 「それって、殺されたってこと?」 「毒を盛られていたのならば、そうなる」  毒物による殺害ならば、本人が自ら飲んでいない場合は誰かに盛られたことになり、殺人ということになる。隼は「今川小百合はおかしな行動をとっていたか」と千鶴に問う、君は目の前に座っていただろうと。  千鶴はえっとと思い出すように間を置いてから「私が見てたかぎりではなかったと思う」と答えた。ただ、砂糖を選んでいる時に目を離してしまっているから確証はないと証言する。  それに伊奈帆が「私もずっと見てなかったら」と申し訳なさげにしながらも、見ているかぎりではなかったと頷いた。  二人の証言が正しいのであれば、小百合が自ら毒を服用した形跡はない。そもそも、彼女は自殺をする様子など微塵も感じられなかったというのが全員の印象ではないだろうかと、隼に指摘されて皆が頷いた。  ならば、これは殺人なのか。琉唯はこの中に犯人がいるかもしれないと考えて真理恵たちを見た。死体で恐怖心は煽られなくとも、近くに犯人がいるというのは不安になるものだ。琉唯はおもわず表情に出してしまう。 「琉唯、大丈夫か?」 「……大丈夫、ではあるけど……」  その表情に気づいた隼が心配げに声をかけてきた。大丈夫か、そうでないかならば、大丈夫ではあるけれど不安にはなる。けれど、そう思っているのは他の人も同じだろう。だから、琉唯は大丈夫ではあると返した。  すっと隼の目が細まってまた周囲を見渡す。彼は何か探しているような目つきだったので、琉唯が「どうした?」と聞いてみると、「気になる箇所はあるか」と問い返された。
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