第二章:占い館殺人事件

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 気になる箇所とはと首を傾げつつも、強いて言うならばと二つあるミルクピッチャーのことを伝える。彼はふむと顎に手をやってから台に置かれたピッチャーを指さした。 「そこに置かれたミルクピッチャーを使った人はいるだろうか?」 「え? 僕が使ったけど……」  輝幸は「今川の紅茶を渡す前に使った」と話す。彼女は紅茶には砂糖とミルクを入れるので、自分が渡すついでに入れてあげたのだという。  さらにテーブルに置かれたミルクピッチャーを使った人を確認したが、誰も触っていなかった。 「今日は人数が多いからミルクピッチャーを二つ用意したのだけれど……」 「そうだよなぁ。人数が多いなら二つあってもおかしくないよな」  ミルクピッチャーはそれほど大きくはないので使う人が多くいれば、一つでは足りないだろう。真理恵は市販のミルクポーションを用意しようかとも考えたけれど、二つ用意することにしたのだと教えてくれた。  それはそうかと納得した琉唯だったが、隼は何か考えている様子だった。引っかかる点があったのかもしれない。なんだろうと琉唯も考えてみるけれど、他におかしいところなんてあったか。 「一つ聞くが、この手作りが売りの人気店で売っているクッキーを今川小百合が好きだったのは、三人とも知っていただろうか?」 「え? はい。その、これを持っていくと機嫌よくしてくれるので、私がよく買ってきてます」 「そうだね。僕も知ってるし、小林が持ってくるのは定番になってたかな」 「私もそうね。伊奈帆さんが持ってくるからいつもお皿は用意しているの」  このクッキーを買ってくるのは伊奈帆で、それを皆で食べるのが定番の流れらしい。殆どは小百合が食べてしまうのだが、彼女の機嫌が良くなるのでそうしていたと。  それを聞いてから隼は「彼女の好みを皆、知っていたということだろうか」とさらに問う。 「砂糖を二個とミルクを入れることも」 「えぇ。彼女、なんでも人にやってもらってたから……」  何度もやれば覚えるわと真理恵が答えれば、伊奈帆と輝幸も「見てたから」と頷く。三人とも小百合の好みを分かっているようだ。なるほどと隼は呟いてゆっくりと台とテーブルに置かれた物たちを見遣る。 「ハートや星型などの砂糖を入れたのは時宮と小林先輩、今川先輩と真理恵さんか」 「自分で瓶から出したのは真理恵さんと時宮ちゃんと小林先輩だね」 「今川先輩を除く三人が同じ瓶から出しているのか」 「うん。でも、砂糖の形は違ってたよ」  小百合はハート型で、千鶴は兎の形、伊奈帆は猫の形を選んでいた。様々な形の砂糖が瓶には入っていたので、物珍しさに眺めていたから琉唯はよく覚えている。 「おれも中身を見たけど……あれ?」 「どうした」 「ハートって無かったような……」  瓶の中にハート形をした砂糖はなかった気がする。琉唯はいろんな形のが入っていたので、入ってる個数が少なかったのかなと首を傾げた。 「あぁ、そういうことか」 「え?」 「琉唯、君はやはりよく見ている」  あとは警察の捜査次第だと言う隼の眼は獲物を捕らえたかのように鋭かった。  
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