第一章:前方彼氏面男子、鳴神隼の最初の推理

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「五月蠅いんだよ。ここ何処だと思っているんだ?」  あまりにも理不尽、あまりにも騒がしい。琉唯は流石に我慢ができずに女子大生に近寄った。ずいっと指をさして、「此処は図書館」と告げる。 「公共の場だ。騒いでいいわけがないし、読書の邪魔をする場ではない。これ、小学生でもわかることなんだが?」  子供でも分かることを大学生が分からないわけないよなと琉唯が言えば、女子大生は口を開こうとするも言葉が出ない。注意されている意味を理解はしているようで、言い返したくてもできないのだろう。 「声が大きいだけでも酷いっていうのに、テーブルを叩いて読書の邪魔をする。周囲の迷惑など気にするでもなく騒いで、相手の頬を叩く。これら全て図書館という公共の場所でしていいことか?」  司書さんもこっち睨んでるぞと貸し出しカウンターを指させば、じろりと見つめる複数の眼が女子大生を捉える。  その視線にやっと気づいたようで顔を赤くさせた女子大生は、何を言うでもなく走っていってしまった。  なんと騒がしい人だろうかと琉唯が思っていれば、隼が叩かれた左頬を擦りながら立ち上がった。 「助かった。一応は礼を言おう、ありがとう」 「五月蠅かったから言っただけだよ」 「すまない、騒がしくしてしまった」 「あんたが悪いわけじゃないだろ。あれはどう見ても女子が悪かったし」  勝手に言いがかりつけて、反論されたら被害者面して騒いで暴力を振るなど、どうみても女性側に問題がある。  あぁいったタイプの女性には変に優しさを与えてはいけない。勘違いされかねないのだから、琉唯は隼の対応自体は問題ないと思っていた。  と、本人に伝えれば、隼は目を丸くさせていた。何故、驚いているのだろうか、彼は。琉唯はおかしなことを言っただろうかと首を傾げる。 「おれは何かおかしなこと言ったか?」 「いや、俺の言い方にも問題があると注意されることが多いから意外だったんだ。だが、はっきりしなければ伝わらないだろう?」 「それはそう。時と場合にもよるけど、はっきりと言うのは悪くないとおれは思うよ」  それで離れていくならそれまでの関係だったってことなわけで。本当に好きなら相手のことも、周囲の事もちゃんと考えられる人のほうがいい。琉唯は「それが判断できるのだからはっきり言っていい」と笑む。  ぴしりと隼は固まった。驚きと動揺などが入り混じった顔というのは、言葉にするのは難しい。あの整った顔がなんとも間抜けに崩れていく様というのは、失礼ながら面白いなと琉唯は吹き出しそうになるのを堪える。 「おもし……すごい顔してるけど、どうかしたか?」 「…………なんでもない」  たっぷりと間を空けてから返された言葉に「なんでもないことはないだろう」と突っ込みたかったのだが、口元を隠しながら動揺している隼の様子に黙っておくことにした。  これがきっかけで隼と話すようになった。琉唯自身からというよりは、彼から話しかけてくれるようになったのだ。懐かれたかなぐらいで軽く考えていた琉唯はそれが甘いのだと知る。
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