第二章:占い館殺人事件

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「私だって言いたいの……?」  真理恵は震える声で問い返せば、隼は「君以外に考えられないが」と答えた。 「君以外に今川小百合を殺害することはできない。西田紗江の姉である君だけだ」  皆が皆、真理恵を注視する。それは驚きと疑問、不安の色を見せながら。  真理恵は表情を引きつらせながら隼を見つめていた。その瞳は動揺と怒りの色をしているけれど、彼には通用しない。冷静に「君が犯人だろう」と告げられてしまう。  隼はどうして彼女が犯人だといったのだろうかと琉唯は自分が気づいたことを元に考えてみる。ティーセットを用意したのは真理恵自身なので、毒を仕込むタイミングはあるはずだ。けれど、ミルクを入れたタイミングで毒を入れることもできる。誰も輝幸の動きなど注視していなかったのだから。  二つあったミルクピッチャーは一つは台に、もう一つはテーブルに置かれていた。真理恵が言うには人数が多いからという理由だったが、これも何か関係しているのだろうかと考えて、もしかしてと琉唯は気づく。 「もしかして、渡辺先輩に容疑をかけるためにミルクピッチャーを二つ用意した?」  琉唯の言葉にえっと周囲が反応する。どういうことだと聞く彼らに琉唯は「いや。真理恵さんが犯人なら」と、彼女が犯人であるならばと前置きをしてから自分の気づいたことを話した。 「渡辺先輩が手伝ってくれるって分かってたんじゃないかなって……」  三人は言っていた、伊奈帆がクッキーを持ってきてそれを食べるのは当たり前になっていたと。恒例となっていたお茶会なのだから、誰が準備を手伝ってくれるかも、そのタイミングも把握できているはずだ。  琉唯は「最初に今川の紅茶を用意したのにすぐに渡さなかったし」と、お茶を準備している時のことを思い出す。  砂糖を入れなかった琉唯はすぐに渡されたのだが、最初に用意された小百合のティーカップは台に置かれたままだった。真理恵は伊奈帆がクッキーを取り出すタイミングを計っていたのではないか、それがきっかけで輝幸が手伝ってくれるのをよく知っていたから。  琉唯の話に伊奈帆が「そういえば、渡辺くんが手伝うタイミングってそこだったかも」と頷いた。輝幸はそうだった気がすると否定しない。 「琉唯の言う通り、これは渡辺先輩に容疑を向けるための行動だ。毒物を混入させた物へ目を逸らさせるための」  ミルクピッチャーを二つ用意したのは予定外である自分たち後輩が参加してきたからだ。用意していたミルクピッチャーを使われては、クッキーを取り出すタイミングなどズレてしまう可能性があった。そのズレを潰すために不自然に二つも置かれていたのだろうと隼は説明する。  小百合のティーカップにミルクを入れる時に毒物を入れたかのように見せかけて、本来の毒が入っていた物へ目を向けさせないようにしていたのだと隼はテーブルに置かれたシュガーポットを指さした。
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