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決定的だったのはある日、琉唯は講義の時間の合間にいつものように図書館へと向かい、どの本を読もうかと新刊コーナーを吟味してい時だ。丁度、隼もやってきたので二人でどの作品が良いかと話をしていた。
「この作家、新作ミステリー出してるじゃん」
「あぁ、それか。恐らく琉唯は読めない」
「なんで?」
「犬猫が無残に殺される」
殺害方法はあえて言わないが、それはもう無残に殺される。そう聞いて琉唯は無理と即答した。琉唯は犬猫が殺される描写が苦手だ。感動系ですら嫌なので、できれば避けたい。
「この作家の小説好きだから教えてくれなかったら読んでた、助かった」
「内容自体は面白いが、動物が無残に殺される描写が苦手ならば読まないほうがいい」
「内容が良いのかぁ。気になるけどやめとこう。ありがとう、隼」
「……っ」
にこっと笑みを見せた琉唯を見て、隼は猛禽類のような眼をこれでもかと開かせてから、ゆっくりと細そめて眉を下げながら額に手を当てた。
なんだ、その行動はと琉唯は眺める。なんとも珍しい様子に暫し様子を窺っていれば、隼は「反則が過ぎる」と振り絞るように言った。
何が反則なのだろうか。琉唯には分からず、特に思い当たることもなかったので頭には疑問符が浮かぶ。うーんと考える仕草をしていれば、隼はまた声を詰まらせた。
「どうした?」
「君は自分が愛らしいというのを自覚したほうがいい」
「は?」
何を言っているのだ、彼は。目を瞬かせる琉唯を隼はじっと暫し、見つめてからほっと息を吐く。彼はいたって真面目な顔をしていたので、冗談でも嘘でもないようだ。
おれは男だがという疑問がまず浮かぶのだが、琉唯は女子から「可愛いよね、緑川くん」と、よく言われていたので違和感はなかった。自分は小動物系らしいというのを女子から聞いている。
とはいえ、それは異性からの印象だ。同性から言われるとなんとも不思議な気分になるわけで。
「君はあの時からといい、俺の脳を焼くのが得意だな」
「言っている意味が解らない、隼」
「無自覚というのは罪深い……。だが、これで理解した」
「何を?」
「俺は君の笑顔に弱い。君自身に惹かれているということだ」
何を言っているのだ、彼は。本日二度目の言葉が頭を過る。そんな琉唯をまた真面目な表情で隼は見つめてくるものだから、問い返すのが間違いな気すらさせてきた。
「あ、そう……」
琉唯はそう返してしまった。馬鹿にするでも、嫌悪するでもなく、そうなんだと受け入れてしまった。
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