第一章:前方彼氏面男子、鳴神隼の最初の推理

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 琉唯には自覚があった。付き合った経験がないわけではなく、何人かと恋人関係になったことがある。けれど、共通して少々、我儘な女性だった。変なというわけではないにしろ、振り回された経験があるのだ。 「自覚あるじゃん」 「まぁ……うん」 「今もなのか、琉唯」 「いや、今は付き合ってる人とかいないけど……。お前に振り回されてる感はある」  前方彼氏面してくるところとかと琉唯が言えば、隼はゆっくりと瞼を閉じて、「これでも抑えている」と一言、返された。それはもう振り絞るように。  あぁ、いろいろ我慢しているのだなと琉唯だけでなく、千鶴も察したようになるほどと頷いた。これ以上の制御は無理なのだろうと。 「まぁ、前方彼氏面な鳴神くんを受け入れてさ、好きにさせてる緑川くんも悪いし」 「それに関しては否定ができない」 「鳴神くんなら襲ってくることはないだろうからゆっくり考えな」 「おれ女側じゃん、それ。いや、それより時宮ちゃん、言い方」  本人の前で何を言ってるんだと琉唯が突っ込みを入れれば、千鶴はてへっと舌を出す。全く悪気の無い様子に琉唯はちらりと隼を見遣れば、彼は「同意なしにそういったことをするわけがないだろう」と当然のように返していた。  なんだか突っ込むのも疲れて琉唯がはぁと溜息を吐けば、「あ、いたいた」と声がする。 「ひろくん!」  声がして振り向けば丁度、話していた相手である千鶴の恋人、花菱浩也(はなびしひろや)がやってきた。焦げ茶の短い髪をワックスでセットした浩也は今日も男前に磨きがかかっている。 「ひろくん、おっそい!」 「悪かったって。友人に呼び止められて遅くなったんだ。その、緑川……。ちょっといいか?」 「どうしたんですか、先輩?」  なんとも申し訳なさげにしている浩也に琉唯が問い返せば、彼はちらりと隼を見てから「ちょっとお前に話があるんだわ」と言われた。  その視線に自分一人でということを察した琉唯は隼に「ちょっと待ってろ」と指示をだして立ち上がる。  隼はなんとも不満げであったが琉唯に「時宮ちゃん見張っといて」と千鶴に頼んでいるのを聞いて、しぶしぶといったふうに頷いていた。
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