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浩也に連れられてカフェスペースから離れると一人の女子が腕を組んで立っていた。琉唯が来たのを見て彼女は「花菱君、遅い」と文句を言う。
藍色交じりのショートヘアーが整った顔立ちによく映え、男女ともに格好いいと思える佐藤結と名乗った彼女は、切れ長な眼を向けて琉唯を逃がすまいと仁王立ちした。
何とも言えない圧に琉唯が一歩、下がれば浩也から「すまん、緑川」と謝られる。それだけで面倒事なのを理解してしまった。
「単刀直入に言うわ。緑川君、ミステリー研究会に入りなさい!」
「はぁ?」
どういうことだと琉唯は首を傾げる。今は大型連休も明けたばかりの五月上旬で、サークル勧誘が激しい四月は過ぎている。
サークル勧誘は常に行われているとはいえ、唐突だなと話を聞けば、ミステリー研究会は人数が少なく、部員を常時募集しているのだという。人数が増えれば盛り上がり、部としての評判にも繋がるのだと言うが、どうも様子がおかしい。
「アナタが入れば鳴神君もついてくるし、彼と話してみたいと前から思っていたのよ!」
琉唯はその一言で「あぁ、隼目当てか」と納得した。知り合いでもない自分をわざわざ勧誘するということは、それなりの目的があるはずだ。女子人気のある隼とお近づきになりたいという誘いはよくあったので、琉唯はまたこれかよと溜息を吐く。
琉唯を気に入っているというのは噂として広まっているので、仲介役を頼む女子は多い。二年に上がった四月の時も、サークル勧誘がしつこかったのを嫌というほど覚えていた。
もちろん、琉唯は断っている。面倒くさいというのもあるが、彼女たちの為でもあった。何せ、隼は琉唯を利用しようとする相手に厳しい。
琉唯を使って近づこうとした女子たちは皆、容赦なく冷たく隼に振られているのだ。それはもう見るに堪えないので彼女たちの心の為にも琉唯は断っていた。
「隼が目当てなんだろ」
「あら、話が早いじゃない。あんたに仲を持ってもらおうと思っているのよ」
「四月からあったサークル勧誘の経験から言うけど無理だよ。おれには手伝えない」
「なんでよ!」
なんでよと言われてもと、琉唯は「あいつは他人に興味がないから諦めたほうがいい」と返すが、「あんたが仲を取り持ってくれればいいじゃない」と引いてはくれない。
「おれには無理なんだって。おれに頼んだ女子たちは悉く散っていったぞ」
「あんたが仲介してくれればいいでしょ!」
「それが無理だって言ってんの!」
いい加減、分かってくれと言葉強めに返せば、「五月蠅い!」と逆に怒鳴られてしまった。いいから私の言う通りにしなさいよと、なんとも自己中心的なことを言ってくる。自分勝手すぎる彼女に琉唯は顔を顰めた。
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