第一章:前方彼氏面男子、鳴神隼の最初の推理

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「サークル見学に来なさい。場所は東棟二階の奥の部屋」 「嫌なんだけど」 「来なかったらあることないこと広めてやるからね」  なんだそれはと琉唯は眉を寄せて「自己中心的すぎる」と口に出していた。それに対して結はそれがどうしたといったふうだ。どんな手を使ってでも隼の恋人になりたいのだと主張する。 「そんなんだから隼に無視されるんだろ」 「はぁ? 分かったような口を利かないでよ!」 「自分の性格を直せよ!」 「五月蠅いわね!」  怒鳴り合うとまではいかずとも、周囲からみればそれは口論に見えるだろう。なんだなんだとこちらを見つめている視線を感じる。そんなもの気にもしていない結は「とにかく来なさい」と指をさす。 「いいから来なさい。拒否権はないわ!」  じゃあ、そういうことだからと結はそれだけ言ってさっさと行ってしまった。なんと、理不尽か。あまりにも自己中心的すぎて酷いと琉唯はむすっとする。いくら器が広いと友人に評判な琉唯でもこれだけは許容できなかった。  隼があんな女のことを選ぶとは思えない。と、いうか選んでほしくはない。あまりにも性格が終わっているのだから、苦労するのが目に見えている。絶対に阻止したいのだが、サークル見学に行かなければよからぬ噂を広められてしまう。 「先輩」 「本当に、すまん」  ぱんっと手を合わせて浩也は謝罪した。どうやら彼女は三年生で同じ学科の同級生らしく、自分が隼に気に入られている琉唯と親しいのを知って頼み込んできたのだという。  無理だと断っていたのだが、あまりにもしつこく粘着してくるものだから渋々、琉唯に会わせたのだと。まさかあそこまで自己中心的な人間だとは思っていなかったらしく、「本当に申し訳ない」と頭を下げていた。  浩也が悪いわけではないので琉唯は「いいですよ、先輩」と返すしかない。問題はこの後のことなのだ。 「これ、勧誘を断りに行く時、隼も着いてくるやつですよ」 「鳴神の冷めた言動に佐藤がキレる未来が見える……」 「先輩、着いてきてくれますよね?」 「……すまん、用事があるんだ」 「おいこら」 「千鶴に事情を話しておくから!」  千鶴ならついていってくれるはずだと浩也はすまんとまた謝る。女子には女子が良いとも言うと、もっともらしい言葉をつけて。確かに女子のことは女子のほうが理解しているだろう。  これは千鶴に頼るしかないかと琉唯は「分かりましたよ」と諦めるしかなかった。隼になんて説明しようかと考えながら。
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