第一章:前方彼氏面男子、鳴神隼の最初の推理

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二.  はぁと琉唯は溜息を零した。それも隣を歩く隼のせいである。彼はサークル勧誘をしてきた部長に苛立っているようなのだ。琉唯に何を言って誘惑しようとしたのかと。  隼に好意があるという邪なことは言わずに、「サークル勧誘を受けて断るためにミステリー研究会に行ってくる」と訳を話したらこれだ。  別に誘惑されたわけではない。と、いうか部長の狙いはお前だよと言ってやりたいのだがやめておく。余計に面倒なことになるからだ。自分に近づくために琉唯を利用したとして。  これまた隣を歩く千鶴にいたっては無言でバツ印を作っている。浩也から連絡を受けていた彼女は全てを理解しているので、「本当の訳は言わない方がいい」という意味がバツ印には籠められていた。  彼女もそう判断するのだがら、これは絶対に言えないなと琉唯は黙って廊下を歩く。東棟の二階は人が少なかった。講義が行われていないというのもあるだろうが、此処はあまり使われていない。  コの字に曲がっている形をしている建物であるので、奥となると先は見えなかった。こんなところに人がいるのだろうかと思うほどに人気がない。 「私、東棟の二階の奥って行ったことないかも」 「奥まではおれもないかも。東棟ってコの字型になってるから変な造りなんだよなぁ」  迷子になることはないけれど奥の教室が何処なのか把握できない。第何講義室など細かく教えてほしかったと琉唯は愚痴る。それに隼が「不親切すぎる」と眉を寄せた。 「そのサークル勧誘をした女子は何がしたいんだ。サークル勧誘をしたいというならば、正確な場所を伝えるべきだろう」 「まぁ、そうなんだけど……」 「不愉快だ」 「隼、とりあえず落ち着いて。おれは大丈夫だから」  ますます不機嫌になっていく隼を琉唯は落ち着かせる。この状態で結に会わせたくはなかった。容赦なく切り捨てるどころか、二倍三倍と言われてしまうことになる。  あの性格ならば耐えきれる可能性はあるけれど、聞いているこっちの胃が持たないのでやめてもらいたい。言い争いなど聞きたくも見たくもないのだ。だから、琉唯は「おれは大丈夫だって」と笑って見せる。  そうすると隼はむぅっと眉を下げる。納得はしていないけれど、琉唯に言われては仕方ないといったふうに怒りを抑えてくれた。  奥まで歩いて角を曲がると奥に人が立っていた。少し大柄な男子が苛立ったように扉の前を陣取っている。もしかしてあそこがミステリー研究会の部室だろうかと琉唯は彼に話しかけた。
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