第一章:前方彼氏面男子、鳴神隼の最初の推理

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第一章:前方彼氏面男子、鳴神隼の最初の推理

一.  入学シーズンを終え、大型連休を乗り越えた五月上旬。南八雲大学のカフェスペースでは学生たちが勉強や談笑に花を咲かせている。賑やかなカフェスペースの窓際のテーブルで、緑川琉唯(みどりかわるい)は襟足の長い栗毛を耳にかけて、目立つ紫のメッシュを揺らしながら腰を掴む腕を叩いていた。 「隼、頼むから離れてくれないか?」 「何故?」  何故と不思議そうに顔を向ける彼の猛禽類のような眼が細まる。ウルフカットに切り揃えられた黒髪が彫刻のように整った顔に映えていて、女性だけでなく男性も見惚れてしまう。そんな青年が大学のカフェスペースで男の腰を抱いていた。 「隼。おれは別に逃げないから」 「逃げるとは別に思っていない。ただ、俺がこうしていたいだけだ。何か問題でもあるのか?」 「人目を気にしてくれないか」  カフェスペースのテーブルの椅子に座っているとはいえ、角度によっては腰を抱いているのが見える。それを他に利用している学生の目に留まるわけで。ちらちらと女子の視線がこちらに向けられていた。  鳴神隼(なるかみじゅん)という男に琉唯は懐かれた。いや、好意を寄せられてしまっている。  どうして、このイケメン男子に男の自分が好かれてしまったのだと、琉唯は出逢った時の事を思い出すように溜息を吐いた。
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