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解離性健忘
仏壇に炊き立てのご飯とお水、そして焙じ茶を備え線香を立てる。
白い煙が揺らめきながら昇り、ストローで吸われるように仏壇の奥に入り込んでいく。
カギがお鈴を鳴らそうとするとハコが「ハコがやるの」と言って奪い取り、盛大に鳴らす。
カギは、苦笑しながらも仏壇に手を合わせる。
ハコもカギを見て、お鈴を持ったまま手を合わせる。
目を開けると仏壇の上に置かれた遺影が入り込んでくる。
銀を磨いたような柔らかく光る白髪のスーツを着た女性、深い年輪こそ刻まれているがその顔はとても美しく、そしてどことなくハコに似ていた。
三年前に亡くなったハコの祖母だ。
七十代の後半を迎えるか迎えないかで亡くなったはずだが写真に映る祖母は実年齢よりも十は若く見える。
美魔女といえばそれまでだが年を取ってる暇がなかったと言うのが本当のところだろう。
ハコが行方不明になってからも、そして戻ってきてからも彼女はきっと心が休まることなんて一度もなかったはずだから。
カギの脳裏に生前の祖母との会話が蘇る。
それはカギがカーマ教に乗り込んでハコを救出してから三ヶ月後、刑務所での面会室でのことだった。
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