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「解離性健忘?」
聞いたこともない言葉にカギは眉を顰める。
警察病院の医師たちによる懸命の治療のお陰でほとんど傷も癒え、後遺症こそなかったがまだ顔面には縫った跡が痛々しく残り、顔を動かすと引き攣るような感覚が残る。
「ええっ」
分厚いアクリル板の向こうでハコの祖母は力なく頷いた。
「精神的外傷における記憶障害……俗に言う記憶喪失よ」
ハコの祖母に会ったのは何年ぶりだろう?
十五歳の時にハコが奴らに拉致されて、その一年後に自分が反社会勢力団体……一般的に極道と呼ばれる道に入った時だったはずだから六年……いや七年振りだろうか?
久々に見たハコの祖母は、少し痩せはしたが見た目自体はそんなに変わっていないように思う。
銀色に輝く白髪、曲がることを知らないような伸びた背筋、皺のないフォーマルスーツ、そしてどこかハコに似た顔立ち、鼻に繋がれた管がなければ記憶との相違なんてほとんどないだろう。
「間質性肺炎よ」
管を見られていることに気づいたハコの祖母は表情一つ変えずに言う。
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