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カギと同じ二十三歳のハコが肩まである髪を二つ結びのお下げにし、小さい女の子が着るような大きな白い猫のプリントされたシャツと水玉のピンクのスカートにピンクの靴を履いて楽しそうにおままごとをしている。
奴らに傷だらけにされた顔はすっかり癒えて少し大人びたもののカギの記憶にあるハコそのモノなのにその表情は……二歳の幼子のようにあどけなかった。
ハコは、お気に入りなのであろうぬいぐるみをブンブン振り回して刑務官に迫り、刑務官は少し困り顔しながらもよく付き合ってくれていた。
「ハコに奴らに拉致された頃の記憶はないわ」
ハコの祖母は、表情一つ変えずに言う。しかし、膝に置いた細い拳をぎゅっと握りしめているのをカギは見逃さなかった。
「それどころか生まれてから今日までの記憶も、体験したことも、学んできたことも全て忘れてしまった。言葉だって簡単なものしか話せない。まさに幼児に戻ってしまったの」
この感情を何と表現したらいいのだろう?
辛い?
悲しい?
痛い?
どんな言葉もどんな表現も今のカギの心境を捉えることなんて出来はしない。
カギは、ハコに向かって震える手を伸ばす。
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