解離性健忘

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 しかし、その手は分厚いアクリル板で阻まれ、触れるどころか近づくことすら出来ない。  ハコの祖母は、伸ばされかけたカギの手を見て、そしてカギの顔を見る。 「鍵本義一君」  ハコの祖母は、カギの本名を一語も間違えずに口にする。 「今日、訪れたのはただ面会に来た訳でも近況を話に来た訳でもない。分かってますね?」  カギは、小さく頷く。  カギの面会には謁見禁止命令が出ており、親族でも立ち会うことが許されていない。  それが許されるのは……。 「おばあさんが俺の弁護士になってくれたってことですよね」  ハコの祖母は頷く。  ハコの祖母は弁護士。  そしてカーマ教の被害者団体の顧問弁護士もしている。  奴らによって大切な家族を奪われ、人生を狂わされ、そして尊厳を踏み躙られ、命すらも奪われた人たちを救うために活動していた。  そしてその活動が皮肉にも自らの大切な家族を奪われ、傷つけられ、戻ってきてからも絶望に追いやられる結果になるなんて誰が思うだろうか?
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