解離性健忘

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 カギ……。  あの頃のハコの声が頭の中に響く。 「わ……」  カギは、小さく口を開く。 「分かりました……」   「ハコは……今日も元気ですよ」  カギは、そう言って口元に笑みを浮かべる。 「ほら、ハコもちゃんとおばあちゃんに挨拶しろ」  そう言って隣に座って南無南無言っているハコの肩を優しく叩く。  ハコは、目をぱっちりと開けて祖母の遺影を見る。 「おばあちゃん!」  ハコは、満面の笑みを浮かべて大きく口を開く。 「今日もハコは元気です!」  大声で叫び、手に持ったお鈴をマラカスのように鳴らす。 「こらっ!」  カギが怒るとハコは笑いながら逃げていく。  その後ろを猫たちが追いかける。 「まったく……」  カギは、肩を竦めて息を吐き、仏壇に向かってもう一度手を合わせる。 「ちょっと元気すぎですけどね」  カギが言うと写真の祖母が嬉しそうに笑ったように見えた。
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