愛せないと言われましても

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 だが、顔を合わせてから挙式までの間、彼はずっと親切にしてくれていた。結婚を嫌がっているようには見えなかったし、気候も習慣も違う異国の環境に慣れないルフィナを常に気遣ってくれた。そんな彼にルフィナも、心惹かれていたのだ。  だからこそ、ここにきて突然の「愛せない」宣言に戸惑ってしまう。  政略結婚だし、情熱的な愛を育めるとは思わない。だけど、それなりに良い関係を築きたいとルフィナは思っている。彼もそうだと信じていたのに。  それに国同士の思惑が絡んだこの婚姻において、何の理由もなく初夜から放置されるというのはさすがに色々と問題があるだろう。  答えを待ってカミルを凝視していると、彼はため息をひとつ落として視線を逸らした。 「いや……やはり、きみと俺とでは何もかもが違いすぎる、と思うんだ」 「そうでしょうか」 「だって、きみは人族で、俺は獣人族だ。きみには耳も尻尾もないし、それにきみはあまりに細く小さい」  カミルの言葉に、ルフィナは再び首をかしげた。  確かに彼の頭には髪と同じ濃い金色をしたふわふわの耳がついている。ちょっと丸みを帯びていて、時々ぴくりと動くのが可愛らしくてたまらない。真面目な話をしているのに時々そちらに視線が吸い寄せられてしまうし、うっかり手を伸ばして触ってしまいそうになる。  そして、険しい顔をする彼の背後でひょこひょこ揺れているのは、こちらは短い金色の毛が生えた尻尾だ。先の部分だけ少し黒い毛がふわりとしていて、こちらもいつか触ってみたいと思っている。
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