獣人王子と妖精姫

5/8
前へ
/161ページ
次へ
 彼の帰国と同時に嫁ぐことが決まったので、侍女たちが荷造りに追われている。とはいえ、ルフィナの荷物は王女とは思えないほどに少ない。急な話だったので持参する予定だったドレス類も手配が間に合わなかったのだ。出発が決まるとすぐに、ヴァルラムがドレスの作成を中止させたことをルフィナは知っている。余計な出費がなくなって、兄もきっとホッとしているのだろう。  父親であるホロウード国王は、ルフィナが婚約することもアルデイル王国に嫁ぐことも、どうでもいいようだった。報告の言葉すら、聞いていたかどうか分からない。今も彼の目には、眠り続ける最愛の妻しか映っていない。  唯一ルフィナとの別れを惜しんでくれたのは、ずっと母親代わりに育ててくれた乳母だ。彼女からは、目立たず疎まれずに生きていく術を学んだ。きっと、アルデイルに行ってもそれが役に立つだろう。  出発の日、ルフィナはカミルと共にアルデイルの大きな船に乗った。国力をあらわすような、雄大で立派な船だ。  船に乗って海を三日三晩越えた先が獣人の国、アルデイル王国だ。見送りも警備もごく少人数で王女の輿入れとは思えない規模だが、それもヴァルラムの指示なのだろう。急だったので国民に周知する時間も取れなかったのだと、兄がカミルに言い訳をするのを、ルフィナは黙って聞いていた。  別れの挨拶なんてお互い必要ないと思っていたが、周囲の目もあるので、まるで別れを惜しむようにお互い向き合って立つ。 「ようやくおまえの顔を見ずにすむな。その顔と身体で、せいぜいあの獣人の機嫌を取るんだな。もうホロウードにおまえの居場所はないのだから、戻ってきたいなどと言い出すなよ」
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

197人が本棚に入れています
本棚に追加