獣人王子と妖精姫

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 肩に手を置くそぶりを見せながら、ヴァルラムが吐き捨てる。その表情は笑顔に見えるが、瞳の奥は凍りついたように冷たい。遠くから見れば、嫁ぐ妹との別れを惜しむ優しい兄、に見えるのだろうが。 「はい、分かりました。お兄様もどうぞお元気で」  微笑み返してみせれば、ヴァルラムが一瞬苦々しげな表情になった。すぐに取り繕うように笑顔になったが、頬が微かに震えている。 「里帰りは認めない。連絡も寄越してくるな。おまえが死んだ時と、それから――子が生まれた時にだけ教えてもらえればそれでいい」 「承知いたしました。では、なるべく早く懐妊の連絡を差し上げられるよう、努力いたしますね」  にっこりと笑ってルフィナは、異母兄に深く頭を下げた。きっともう二度と、会うことはないだろう。    出港してしばらくすると、カミルがルフィナの部屋にやってきた。初めて乗った船に最初ははしゃいでいたのだが、揺れに耐えきれず盛大に酔ってしまったのだ。そのため、ルフィナは部屋でぐったりと気持ち悪さに耐えていた。すぐにそれに気づいたカミルが薬をくれたので吐き気は落ち着いたものの、まだぐらぐらと全身が揺れているようだ。 「姫、体調はどうですか。こちらの香草茶は、飲むとすっきりすると思うのですが」  心配そうな表情で差し出されたグラスには、緑の薬草が浮いた氷水が入っていた。爽やかな香りに、これなら飲めそうだとルフィナもうなずいて受け取る。清涼感のある味は、気持ち悪さを洗い流してくれるようだった。  あっという間に飲み干したルフィナは、姿勢を正すとカミルに向き直った。
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