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「申し訳ありません、カミル殿下。体力には自信があったのですが……船酔いは、盲点でしたわ」
「謝ることなどありませんよ。俺があなたを手放したくないと願うあまり、無理を言って一緒に来てもらったのです。心の準備もできず、慌ただしい日々にお疲れも出たのでしょう」
そう言ってカミルはルフィナの頬に触れた。思いがけない触れ合いに驚いてしまうものの、彼は顔色を確認したかっただけのようだ。頬に赤みが戻ってきたと安心したように告げられる。
「ご心配いただき、ありがとうございます。おかげさまで、随分と良くなりましたわ」
「それは良かったです。ところで、我々は婚約者同士となった身。堅苦しいことは抜きにしませんか」
カミルの提案に、ルフィナは微笑みを浮かべてうなずいた。
「もちろんです。でしたら私のことはどうぞルフィナとお呼びください」
「分かった、ルフィナ。じゃあ俺のこともカミルと」
「承知いたしました、カミル様」
「うーん、まだ堅苦しいけど……。まぁいいや、それはおいおい。実はひとつルフィナに聞きたいことがあって」
「聞きたいこと、ですか?」
首をかしげたルフィナに、カミルは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「そう。きみは、ふわふわしたものが好きなんじゃないかなって思って」
「あ……」
にっこりと笑顔を浮かべながら顔をのぞき込んでくるカミルは、絶対に分かってやっているはずだ。だって、ルフィナの目の前に彼の耳があるのだ。ぴこぴこと動く様子を見せられて、思わずルフィナはこくりと息をのむ。
「きみになら、触らせてあげる。いいよ」
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