獣人王子と妖精姫

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 囁かれた言葉に誘われて、ルフィナはゆっくりと手を伸ばした。緊張して少し震える手で彼の耳に触れると、ふわふわの毛が指先をくすぐる。 「……どう?」 「すごく、素敵。ふわふわで柔らかくて……」  柔らかな毛並みにうっとりとしながら、ルフィナは答える。もふもふを愛でているだけなのに、何だか甘く官能的な空気が流れているような気がするのが不思議だ。  カミルも気持ちがいいのか、目を細めている。 「結婚したら、毎日だって触らせてあげる。きみは、俺の特別だから」 「ふふ、それはとても素敵ですね。私も、カミル様をお支えできるよう励みますね」  優しい言葉が嬉しくて思わず微笑むと、カミルも嬉しそうにうなずいてくれた。 「アルデイルは、とてもいいところだ。きみは王太子妃ということになるが、あまり気負わず自由に過ごしてくれればいい。我が国はあまり堅苦しいことを好まないし、家族の皆もきみに会えるのを楽しみにしている」 「お気遣いいただき、ありがとうございます。私も、アルデイル王国の皆様にお会いするのが楽しみです」  アルデイル国王夫妻であるカミルの両親にも、同じようにもふもふの耳があるのだろう。カミルを育てた人だ、きっとあたたかくて素敵な人たちに違いない。  故郷を離れた寂しさなど一切感じないまま、ルフィナはアルデイルでの新生活に胸をときめかせていた。
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