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「えっと……そうだな、それでいい、うん、可能性はゼロじゃないしな」
何やらぶつぶつとつぶやきつつ、カミルはそっとルフィナを抱き寄せた。優しいぬくもりに思わず幸せを感じながら身を任せると、カミルの手が頭を撫でた。
「だから、しばらくこういうことは控えておこう」
「え?」
「もしも子ができていたら、身体に障るだろう」
その言葉に、ルフィナは思わず自らのお腹に手を当てる。まだ薄いこのお腹の向こうに、もしかしたら新しい命が宿っているのだろうか。カミルの血を引く子は、この国の未来を背負う可能性がある。王太子妃として、ルフィナは世継ぎを産まなければならないのだ。使命感に燃えて、ルフィナは大きくうなずいた。
「承知いたしました。妊娠の有無が分かるまでは夫婦の営みはひとまず延期ということですね」
「いやあの、そんなに気負わなくてもいい。子供は授かりものだから」
「でも、お世継ぎを産むのは私の大事な使命ですもの。もしも子が宿っていなかった時は、あらためて抱いてくださいね!」
まっすぐ見つめてそう言えば、カミルはどこか困ったような表情を浮かべながらも分かったとうなずいてくれた。
「それから、昨晩のことは二人だけの秘密にしておこう」
「秘密、ですか」
ルフィナはきょとんと首をかしげた。昨晩ルフィナがカミルに抱かれたことは、誰もが知っている事実。シーツに染み込んだ血は、それを裏付ける証拠となる。それをどう秘密にすればいいのだろうか。
目を瞬くルフィナを見て、カミルは小さく笑った。
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