ホロウードの妖精姫(カミル視点)

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 これまで交流のなかった獣人相手ということで、彼がそういった気持ちを持つことも理解はできたが、それをこちらに気取らせるのはどうかと思う。あまりに酷い態度を取られるなら、これまで通り国交を断つことも考えていた。事実カミルは、ホロウードとの積極的な交流はこの先も必要ないと父王に報告するつもりでいたくらいだ。アルデイルの軍事力を貸す見返りとして輸入を約束した鉱石は、確かに希少だが絶対に必要な物ではないから。  それをカミルが覆したのは、王女ルフィナの存在。彼女は、両国の関係改善のために半ば人質のような形でカミルに差し出された婚約者だった。結婚適齢期を迎えていたカミルの相手としてルフィナは最適な相手であったし、ホロウードの妖精姫と称される彼女は確かに美しかった。  そんな彼女との顔合わせの席で、兄であるヴァルラムは信じがたいような言葉を妹姫に向けて吐いたのだ。  恐らくカミルには聞こえないだろうと小声で吐き捨てた言葉だったが、あいにくカミルは耳がいい。   ――本当におまえは、見てくれだけは上等だな。それを活かせる機会がようやく来たんだ、せいぜいあの獣人に媚びてみせろよ。  カミルを蔑むような発言と共に、激しい憎悪の含まれた声。ルフィナが正妃の子でないことは聞き及んでいたが、これほどまでに関係が悪いとは。  そんなヴァルラムの言葉にも、ルフィナは表情を変えずに黙って微笑みを浮かべていた。その顔には、逆らっても意味などないという諦観が漂っているように見えた。
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