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聞くに堪えない内容を、ヴァルラムは嬉々として語る。
目の前に座るルフィナには聞こえていないのだからと怒りを抑えるが、握りしめた手は震えていた。
――まぁ、もしもあの獣人がルフィナを不要だと言うなら、あいつは大臣の爺の後妻にでもやればいい。口うるさい爺だが、若い女には目がないからな。あの家は金だけは持ってるし、そちらにやるのもいいかもしれないな。
ヴァルラムの言葉に、カミルはこっそりと唇を噛む。
ルフィナは、常にあの兄に憎悪を向けられて育ったのだろう。国王と平民育ちの女性の間に産まれたとして、その出自にルフィナは何の責任もないのに。
カミルのもとに嫁がなければ、ルフィナはもっと酷い目に遭うに違いない。これ以上悪意に晒されるルフィナを見ていられないし、彼女を他の男には渡したくない。
そう考えたカミルは、すぐにでも彼女を自国に連れ帰ることを決意したのだった。
◇
ルフィナはやはり獣人族に嫌悪感はなく、むしろふわふわの毛を撫でることを喜んでいた。王太子であるカミルの耳を撫でるなど、大人になった今は親でもしないが、ルフィナにだけは触らせてやろうと決めた。
うっとりとした表情でカミルの耳に触れたルフィナを思い出すと、それだけでカミルは少し鼓動が速くなる。
妖精姫と称される美しい容姿はもちろんだが、悪意に晒されても折れなかった心の強さやまっすぐな眼差しに、カミルは惹かれたのだ。
そんな彼女との結婚式は、カミルの人生において絶対に忘れられない日となった。
アルデイルの伝統的な婚礼衣装に身を包んだルフィナは、それこそ本当に妖精かと思うほどに美しく可憐だった。
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