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ただいま。
1Kのアパートに僕の声が虚しく響く。おかえりと言ってくれる君はもういない。
あの日泣きながら部屋に転がり込んできた君を僕は抱いた。
初めに目をつけたのは僕のほう。それなのにあいつは「これ、俺の彼女」と君を紹介してきた。確かに君は僕にさほど興味はなさそうだったけど。
あいつはライヴの打ち上げに必ず君を連れてきたから、僕たちは話す機会も増えた。
そしてあの日「浮気された」と君は嗚咽をもらした。悪いのはあいつだ、君じゃない。僕も悪くない、先に君を好きになったのは僕のほうだから。
2つ掛け持ちしたバイトから帰ると必ず君がいた。
料理が苦手だからと、スーパーで買ってきたお惣菜を皿に盛って、テーブルの上に並べてくれた。
2人でご飯を食べ、2人でお風呂に入り、1枚の布団に寝た。
あれはおままごとだったんだね。
あいつの連絡先は削除したといっていたのに、削除していたのは着信履歴。
「戻ってこいって言われたの」
君が僕を試したから、僕は何とも思ってないふりをして答えた。
「ふぅん、そうなんだ」
僕の小さなプライドが邪魔をしてしまったんだ。
君はがっかりしたのだろう。あいつのもとに戻ってしまった。あいつも君も、まるで何事も無かったかのように振る舞い、僕だけが現実を受け入れられない。
【完】
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