背徳と闇の帷ー06

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加藤シュウジは、平凡な少年だ。 成績も普通、彼女も居ない、語る夢もない、何処にでも居る様な子だった。 平凡である事に不満は無い。 時間は静かに流れるものだと思っていた。 しかし、ある夜に彼の人生は変わった。 その、小さな箱一つで。 9.平凡を暴かれて その箱を拾ったのは本当にたまたまで、それが煙草の箱で有ると気付いた時にパシャリと音と光がする。 驚いて視線を上げると、スマートフォンを向けられていた。 「撮っちゃった」 少し掠れた声で宣言され、シュウジは焦って拾い物を隠す。そんな事をしても意味が無いのに。 「こっ!これはたまたま拾っただけで!!僕は煙草なんて吸ってない!!」 必死の弁解が可笑しかったのか、クスクスと笑いながらその人はスマートフォンを降ろした。 闇の道を一点だけ照らす街灯の下にその人が現れ、シュウジは目を見張った。 雪の様な髪と肌に、メッシュと眼の緋が映える。 まっさらな雪の中に薔薇の花びらを散らした様な、綺麗な人だった。 「君の言葉とこの画像、校長先生はどっちを信じるかな?」 緋眼を細める彼に、シュウジは血の気が引く。 「なっ!何でもするから!何でもするからその画像消してください!!」 もしこの画像を拡散されたら、平和だった人生が終わると思い土下座をした。 アルビノの少年は苦笑しながら、土下座はしないでよと声を掛ける。 「本当に何でもする?」 「する!!するから!!!!」 正直焦ってパニックになっていた。何でも、なんて、いくらでも酷い事をさせられるのに。 「じゃあ、俺と友達になってくれる?」 雪の少年は、儚い声でそう言った。 「なる!なるから!!」 強くもない口約束だ。けれど彼はわざわざしゃがみ、目の前でさっきの画像を消した。 シュウジはやっと安心し、立ち上がる。 「これで俺と君は友達ね」 儚い色をした彼は、にっこりと微笑んだ。 「俺は神里シオン。君は確か……加藤シュウジ君だよね?」 名指しされ、頷く。 差し出された右手に、恐る恐る握手した。 「な……何で、僕の名前を知ってるの」 緊張で少し声が震える。 「ずっと友達になりたかったんだ」 宜しくね、と念を押され、頷く事しか出来なかった。
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