オズウェルside1 妻が可愛くてもげるほどつらい

2/10
前へ
/52ページ
次へ
「いやいや、ごく普通の疑問だろ。それに相手は例の淫魔(サキュバス)令嬢じゃないか。騎士団内じゃ、あの団長が毎夜絞りつくされてるって下卑(げび)た憶測が飛びかってるぜ」  反射的に、オズウェルの身体が動いた。  腰に帯びた長剣を遅滞(ちたい)なく抜刀し、切っ先をルーカスの眉間に突きつける。  軍服を脱ぎ、友人と酒を酌み交わす時であっても、帯刀しているのがオズウェルの常だ。 「(みな)、余裕があるようだな。今日から鍛錬の強度を三倍にする」  ネコ科の獣人であるルーカスは、頭頂部に生えている耳を平たく伏せ、そろそろと両手を顔の高さまで上げた。 「人の妻を淫魔呼ばわりした非礼も詫びてもらおう」  自分に対する不名誉な憶測よりも、妻・メリナに対する侮辱的な呼び名の方がオズウェルの頭にきた。  しかし、不用意に剣を抜くなど騎士としてあるまじき行為だ。普段なら決して犯さない失態ばかり重ねてしまっている。 「すまない。口が過ぎた」  ルーカスはテーブルに両手をつき、深く頭を下げた。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加