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「いやいや、ごく普通の疑問だろ。それに相手は例の淫魔令嬢じゃないか。騎士団内じゃ、あの団長が毎夜絞りつくされてるって下卑た憶測が飛びかってるぜ」
反射的に、オズウェルの身体が動いた。
腰に帯びた長剣を遅滞なく抜刀し、切っ先をルーカスの眉間に突きつける。
軍服を脱ぎ、友人と酒を酌み交わす時であっても、帯刀しているのがオズウェルの常だ。
「皆、余裕があるようだな。今日から鍛錬の強度を三倍にする」
ネコ科の獣人であるルーカスは、頭頂部に生えている耳を平たく伏せ、そろそろと両手を顔の高さまで上げた。
「人の妻を淫魔呼ばわりした非礼も詫びてもらおう」
自分に対する不名誉な憶測よりも、妻・メリナに対する侮辱的な呼び名の方がオズウェルの頭にきた。
しかし、不用意に剣を抜くなど騎士としてあるまじき行為だ。普段なら決して犯さない失態ばかり重ねてしまっている。
「すまない。口が過ぎた」
ルーカスはテーブルに両手をつき、深く頭を下げた。
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