63人が本棚に入れています
本棚に追加
「耳と尻尾を他人に触らせるのは性行為同然」などと言われるくらい獣人にとっては敏感な部位だ。
だが人間であり、オズウェルと出会うまで獣人と関わったことのないメリナがそんなことを知るはずもない。
楽しそうに尻尾に櫛を通すメリナに対し、オズウェルは何も言えなかった。尻尾を動かさないよう努めるので精一杯だった。普段は尻尾に重しをつけて動かないようにしているが、ブラッシング中はそうもいかない。
おかげでその夜は散々冷水を浴びた。そこまでしなければ鎮めきれない自分に嫌気がさす。
「無理をするなと言ったのに、俺に合わせて蒸留酒を飲もうとするし」
オズウェルはイヌ科獣人特有の鋭く湾曲した爪でグラスのふちを弾いた。澄んだ高い音が鳴る。
メリナは一口酒を含んだだけで首元まで赤くした。青みの強い翡翠色をしたメリナの瞳は水を張ったように潤み、うふふと笑いながら身体がふらふらと左右に揺れ始めた。
オズウェルが肩をつかんで止めると、力なくもたれかかってきて、たどたどしく「オズウェルさま」と呼ばれ――ここまで思い出したところで、オズウェルは強く頭を揺すった。
これ以上はまずい。冷水を浴びに行かなければならなくなる。
最初のコメントを投稿しよう!