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「もしかして旦那様のこと苦手なのですか、お嬢様」
昔の呼び方が抜けないノーラは、言い終えてから慌てて「奥様」と言い直す。
ノーラの母がメリナの乳母であったため、彼女とはほとんど姉妹のような間柄だ。他国に嫁ぐメリナを心配し、半ば強引に同行してしまうくらい過保護なところがあった。
「まさか! 大好きよ!」
メリナは興奮のあまり、テーブルに手をついて立ち上がった。
繊細な作りのティーセットや、焼き菓子や軽食の乗ったケーキスタンドがかちゃかちゃと音を立てて揺れる。
ノーラがしたり顔をしているのに気付き、メリナは遅まきながら自分が「言わされた」ことを知った。じわじわと熱を帯びる頬を押さえ、静かに着席する。
「あの日、私のことをちゃんと見てくださったのは、オズウェル様だけだもの」
メリナはドレス越しに下腹部を押さえ、目蓋を伏せた。
服の下には、生家であるバートレット伯爵家に代々受け継がれてきた呪いの印がある。
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