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メリナside2-1 淫紋の災い
「あ」
「あ」
片付けのために食器を持って先に部屋を出たノーラと、もう一人、誰かの驚く声がメリナの耳に入った。
「ノーラ?」
メリナは扉から上体だけを出して外の様子をうかがう。
廊下には食器を抱えるノーラと、体勢を崩したノーラの腕をつかんで支える男性騎士の姿があった。
男性の方は、確か副団長のルーカスだったとメリナは記憶している。こげ茶と黒の縞模様のような髪色が特徴的なネコ科の獣人だ。軍服ではなくシャツとジレを組み合わせた軽装であるため、プライベートで訪れたのだろう。
メリナは何も考えずにルーカスと目を合わせてしまった。
嫁いでからというもの、オズウェルが徹底的に配慮をしてくれたため、夫以外の男性と対面することがなかった。それゆえに危機感が薄れていたのかもしれない。
「シャムス夫人? ――あ、まずいかもこれ」
ルーカスのスリット状の瞳孔が大きく開いた。瞳が黒く染まる。
本当に猫みたい、と思いながらメリナが見続けていると、ルーカスがふらふらと近寄ってきた。
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