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「あいつ、毎日こんなの抑え込んでんのか。修行僧かよ……!」
ルーカスは前髪をつかむようにして頭を押さえ、熱っぽいため息を吐く。
「お嬢様! 部屋の中にお戻りください!」
悲鳴に似たノーラの甲高い声に、メリナははっと我に返った。慌てて扉を閉める。
だが茶と黒の縞模様の毛皮に覆われた手が、扉が閉まるのを阻んだ。強い力で押し開けられる。
メリナは後ずさった時に足がもつれ、よろめいて壁に手をつく。
直後にどんっ! とメリナの顔のすぐ横に手が叩きつけられた。音と振動にメリナの身体がこわばる。
「夫人、すみません……」
ルーカスは謝りながら、メリナの手首をつかんだ。壁に押さえつけて固定する。持ち上がった縞模様の尻尾の先端だけがぴくぴく動く。
ルーカス自身の意思でないことは痛いほどわかった。明滅するように瞳孔の大きさが絶えず変化している。
(私のせいで……)
メリナはうつむき、無意識のうちに下腹部を押さえた。怖さよりも、ルーカスに対する申し訳なさの方が先に立つ。
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