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淫紋の効果が明確に表れ始めた十二歳の時から、男性と対面するとどうなるか嫌というほど理解していたはずだ。オズウェルのことで浮かれ、周りが見えなくなっていた。
「メリナ! ルーカス!」
オズウェルの声が聞こえ、メリナは顔を上げる。
屈強な腕がルーカスの首を絞めあげていた。
メリナの手首をつかんでいたルーカスの腕から力が抜ける。
「お前のこと、茶化して、悪かった……」
ルーカスは弱々しく笑い、意識を失った。首ががくんと垂れる。
「怪我はないか」
気絶したルーカスを床に横たえ、オズウェルはメリナに手を伸ばした。
黒い獣の手が、今しがた自分を捕らえていたものと二重写しに見え、メリナは反射的に後退る。背中が壁にぶつかり、衝撃で幻覚が霧散したが、遅かった。
オズウェルの目蓋は伏せられ、わずかに覗く紅玉の瞳には暗い影が差している。
「すまない。屋敷に副団長を呼んだことを伝えるのを失念していた」
オズウェルは伸ばした手をゆっくりとおろし、メリナに向かって深く頭を下げた。
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