メリナside2-1 淫紋の災い

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(もっと早くこうすればよかった)  メリナはナイフを握る右手に力を込めた。  やや装飾過多ではあるがナイフ自体はありきたりのもので、嫁入りの際に父親が持たせてくれたものだ。  万が一なにかあった際、名誉が汚される前に自ら命を絶つため。あるいは、どうしても耐えられなくなった時に、淫紋をえぐり取るため。  オズウェルにもノーラにも話していないことだが、淫紋を無力化する方法はいくつかある。そのうちの一つが、「皮膚ごと淫紋をえぐり取る」。淫紋はあくまで皮膚に刻まれたものらしい。見えている部分を炎で焼き潰すことでも無力化できるそうだ。  とはいえ歴代の記録の中で、その方法を実行し成功したのはそれぞれ一人ずつ。陣痛を上回る痛みが生じるのだという。  メリナはもう一度ナイフを握り直した。手汗で柄が滑る。 (床が汚れてしまわないようにいらない端布(はぎれ)を敷いたし、オズウェル様やみんなが誤解しないように手紙も書いた。覚悟を決めて、痛みに声を上げないようにしっかりスカートを噛んで――)  両手を組むようにナイフを握り、切っ先を淫紋へとあてがった。ちくりと冷たい痛みが肌を刺す。
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