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「言われてはおりません。ですが間違いなく背負う必要のない重荷でしょう。私が下腹にいかがわしい印を宿しているせいで、殿方はみな、意思を望まぬ形にねじまげられてしまいます。ルーカス様だけでなく、オズウェル様も、そうなのでしょう?」
言うつもりのなかったことが、するするとメリナの唇からこぼれ出ていく。こんなことを明かにして何になるのだろう。そう思いながらも言葉は止まらない。
「淫紋にあてられたから、私を娶ったのではありませんか」
オズウェルの目が大きく見開き、紅玉の瞳に燃え盛る炎が灯ったように見えた。
メリナは怒られると思い、とっさに固く目をつむる。
自分の不安を盾に、オズウェルにひどい言葉をぶつけてしまった。手をあげられても仕方がない。
「君に対する感情が、印に由来するものではないという証明はできない」
メリナの頭に、そっとオズウェルの大きな手が乗せられた。
「だが君に印がなければ、生国が異なる君と出会うことはなかった」
メリナが怖々と目蓋を持ちあげると、口角をほんの少しだけ持ちあげたオズウェルの顔があった。微笑みと呼ぶにはあまりにぎこちない表情だったが、オズウェルの思いを感じ取るのには充分だった。
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