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「信じてくれとしか、俺には言えない。人の笑顔が美しいと、愛おしいと思ったのは、君が初めてだ」
オズウェルの手がメリナの髪を撫で、頬に触れる。肉球を有する獣人の手は不思議な感触で、日頃剣を握っているせいかごつごつとしていて少し硬い。
メリナはオズウェルの手に自分の手を重ね、初めて出会った時と同じ笑みを浮かべた。
(嘘でも本当でもどちらでもいい。私はオズウェル様を信じたい)
オズウェルは何か言いかけたが、途中で唇を引き結んだ。眉をひそめ、にらむような強さでメリナを見つめる。
「オズウェル様?」
「……限界だ」
言うが早いか、オズウェルはメリナの唇を自分のそれでふさいだ。幾度となく重なり、擦れ合う。オズウェルの薄い唇からは微かに酒の匂いがした。
婚姻の儀の時におこなった形式的なくちづけしかメリナは知らない。オズウェルらしからぬ荒々しい行為に理解が追い付かず、まばたきすらもできなかった。
唯一心臓だけはいつもより活発に動き、急かすように鼓動を響かせている。
じわじわと体温があがっていき、メリナの意識が曖昧になりかけた頃、唐突に唇が解放された。久しぶりに吸い込む空気はやけに冷たい。
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