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「ずっと触れてほしかったんですよ。それなのに全然気付いてくださらないから」
「ずっと?」
「薄着をしたり抱きついたり、わからないなりに色々頑張ったのに。尻尾すら動かしてくださらないんですもん」
メリナは唇をとがらせ、ごちっと額をぶつけた。距離が近いせいか、オズウェルの赤い頬の熱が感じ取れる。
「まさか、ぜんぶ――ふ、子供だったのは俺のほうか」
オズウェルは自嘲し、メリナの腰に腕をまわした。互いの身体が密着するように抱き寄せる。
腹部のあたりに特別熱いものが当たるのを感じ、メリナはわけもなく焦った。
「己の察しの悪さが嫌になる」
オズウェルの唇に意地悪な微笑みが浮かぶ。
細められた切れ長の瞳は、もはやしょげた大型犬などではない。企みのある黒い狼がちらりと牙を見せた。
どちらともなく顔が近付き、三度ふたりの唇が重な――らなかった。
触れる直前で、オズウェルが勢いよく首をひねる。
その視線の先には、先ほどオズウェルが蹴破ったせいで見るからに建付けの悪くなった扉と、ノーラを筆頭とした侍女たちの姿があった。みんな一様ににやにやとしている。
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