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微笑みが仮面のように貼りつき、他の表情に切り替えるのが困難になった頃、その男は現れた。
男が部屋に一歩足を踏み入れた途端、倦んだ空気がぴりっと引き締まったのをメリナは肌で感じた。
その男は、隣国の紋章が刻まれた紺色の礼装軍服に身を包んでいた。長身かつ屈強な身体つきをしており、いかにも軍人然としている。
切れ長の瞳は、紅玉をはめ込んだかのような曇りのない赤。眼光が鋭く、心にやましいことを抱えていなくとも、一瞥されるだけで落ち着かなくなってしまう。
艶やかな黒髪はきっちりと後ろに撫でつけられており、彫りが深く雄々しい顔立ちを際立たせていた。
抜き身の刃を思わせる冴え冴えとした美貌の男だが、それ以上に目を引くものを備えていた。
「獣人……」
隣にいる父の呟きがメリナの耳に入る。
男の腰のあたりからは、長い飾り毛に覆われた豊かな尻尾が。頭頂部にはピンと立った三角形の獣耳が生えていた。どちらも髪と同色の毛色をしている。
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