メリナside1 尻尾ひとつ動かさない旦那様に愛されたい

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 微笑みが仮面のように貼りつき、他の表情に切り替えるのが困難になった頃、その男は現れた。  男が部屋に一歩足を踏み入れた途端、()んだ空気がぴりっと引き締まったのをメリナは肌で感じた。  その男は、隣国の紋章が刻まれた紺色の礼装軍服に身を包んでいた。長身かつ屈強な身体つきをしており、いかにも軍人然としている。  切れ長の瞳は、紅玉をはめ込んだかのような(くも)りのない赤。眼光が鋭く、心にやましいことを抱えていなくとも、一瞥(いちべつ)されるだけで落ち着かなくなってしまう。  艶やかな黒髪はきっちりと後ろに撫でつけられており、彫りが深く雄々しい顔立ちを際立たせていた。  抜き身の刃を思わせる冴え冴えとした美貌の男だが、それ以上に目を引くものを備えていた。 「獣人……」  隣にいる父の呟きがメリナの耳に入る。  男の腰のあたりからは、長い飾り毛に覆われた豊かな尻尾が。頭頂部にはピンと立った三角形の獣耳が生えていた。どちらも髪と同色の毛色をしている。
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