メリナside1 尻尾ひとつ動かさない旦那様に愛されたい

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「ごめんなさい、ええと、アプローチの話だったわよね。他にしたことといえば、一緒にお酒をいただいたこともあるわ。お酒って緊張をほぐすのに良いんでしょう? けれど初めて飲んだせいか、一杯も飲みきらないうちに私が酔いつぶれてしまって。しかもその時の記憶が全然ないの。オズウェル様は『体質に合わないようだから飲まない方が良い』って言うだけで、何があったのか教えてくださらないし。あとはね、サロンで教えていただいた帝都で流行っているっていう、あの、そういう雰囲気になりやすいお香を取り寄せて()いてみたりとかもしたのだけれど――」 「なんていうか結構色々がっつりやってますね」  ノーラは呆れ半分感心半分といった調子で言い、クッキーを口の中に放り込んだ。 「だって……!」  メリナは薄桃色の髪を落ち着きなく撫でさする。  淫紋のせいでまともに男性と接した経験がないため、どれが本当に効果があるのか、ぶっつけ本番ですべて試してみるほかなかった。  上流階級の夫人が主催するサロンでは夫婦仲に悩みを抱える者も多く、ちょっとした仕草から呪術的なものまで誘惑に関する話題に事欠かない。
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