4 妹の縁談

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4 妹の縁談

 やがて私は社交界にデビューした。  三年程そこで立ち回りを覚え、兄とバーナード様が大学での学業に一区切りついた頃、私達は結婚した。  結婚式でのキャサリンは、それまでに無いほど静かだった。  小さな頃から結婚式というものが大好きで、その外見もあって何かしらの役を頼まれることも多かった。  だからやはりはしゃぐかと思ったらそうでもなかった。  何やらむっとして黙っている様にも思えた。  だがその時は、私自身がいっばいいっぱいだったので、妹のことまでそれ以上考えは回らなかった。  ちなみにその頃はまだキャサリンの相手が見つかっていなかった。  最初の婚約時期を逃すと、また別のコースで探さなくてはならない。  条件が本当に厄介だった。  学校を辞めてからは家庭教師を改めて雇ってもらった。  今度は多少厳しくとも、基礎をもう一度叩き込んで後、学校のカリキュラムの――せめて半分程度まで、何とかできる様な人材を求めた。  キャサリンはともかく人を見て、怠けられそうだと思ったらもう大して相手のことは聞かない。  これは学校でも散々聞かされた。  だから徹底した人材を、と職安に頼んだのだ。  さすがのキャサリンも悲鳴を上げた。  だが教師も相当堪えた様だった。  学校の半分、は無理だった。四分の一がいいところだった。 「しかしまあ、それだけでも良いとするか。後はこの子に合った夫を探すしかないな」  父はそう言って頭を抱えた。  だが思わぬところから助けの手があった。  私の夫の兄だった。  一つ違いなのだが、夫とは違う学科専攻で少し長めに大学に在籍していた。  ただこの在籍期間の長さで、昔結んでいた婚約が解消されてしまったのだという。  当人は物静かな学究肌だ。  弟である夫から見ても「勿体無い程いい奴だと思う」とのことだった。 「正直、君には兄貴の方が向いているんじゃないかな、と思って考えることがあったよ」  夫はそうこぼすことがあった。 「それって私は貴方に合わないってこと?」 「いや、俺はあまり君の様な本も読まないし、がさつだし、浮かれ騒ぎも嫌いじゃないから、君にはちょっと辛いかな、と思うこともあったんだけど」 「別に私はそういうものが嫌いという訳じゃないわ。逆に貴方の方が退屈するんじゃないかと思っていたけど」 「いやあ、外で騒がしくしていると、やっぱり家はゆっくりしたいよ。だから結婚するなら君の様なひとがいいとずっと思っていた」 「そうね、結構反対の方がいいのかも。私は放っておくと本の虫になってしまってこれはこれで困るから、現実へ引き戻してくれる貴方の様な存在が必要なんだわ」 「割れ鍋に綴じ蓋か」 「そうかもね」  私達はそうやって上手くやっていた。  そんな私達の結婚式の時に、どうも義兄のロンバートは妹に一目惚れしてしまったそうなのだ。 「割れ鍋に綴じ蓋と言う意味ではいいのかもしれませんよ」  夫はそう言って父にも「悪くない」という意味の意思表示をした。  一方のキャサリンは、と言えば。  意外なほどに静かにそれを受け容れたのだ。  珍しい、と私は思った。  縁談関係には何かと難癖つけた妹が、これには特に何も言わなかった。  そこで話はさくさく進んでいった。  ロンバートは美しく育った妹に夢中だった。  プレゼントを送ったり、あちこちに連れ出したり…… それまでの彼では考えられない、と夫に言わせる程だった。  そして結婚式の当日がやってきたのだ。
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