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「あれっ?母さん、いきなりどうしたの」
なんだよ、俺の母親じゃないか。
それならば、俺の出張開けの翌日に現れたことも理解が出来る。
でも、何処か違和感が…
目の前で爽やかに微笑む母さんはいつもより数段若く、それに奇麗に見えてしまう。目を擦ってもそれは変わらない。
「良かった、居て」
俺に向かってそう言う母さんの声は、やはり籠りのない高い声である。
いつも電話で出す、余所行きの声よりも高く澄んでいる。その理由は若いからとしか言いようがない。
俺の目だけではなく耳も認めているのだから間違いはない。
直ぐそこに居る母さんは、俺とそれ程年齢の変わらないのだ。
い、いったい…
「だ、だ、誰っ…」
もう、腰が砕けそうになるのを抑えているのがやっとの俺には、そう言うのが精一杯。
そんな俺に若い母親は、ゆるりと近づいて来る。何も口にせず、ただ微笑だけを浮かべながら。
その近づいて来る若い母親の方から、風が吹き俺の頬にあたる。
柔らかく、暖かく、俺の素肌にあたる。
この感じ、小説に読んだことがある。
こんな時は大概…と言う事である。
まさか…
確か、身体の調子は良くなって来てるっていってはず…
母さん、まさかこんなに急に…
そんな、まさか…
そ、そんな。
そう言うこと…そう言うことなのか…
俺は、全てが分かってしまった。
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