お帰り

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お帰り

「ただいまっ」  玄関から帰りを告げる静かな声が聞こえて来る。  その言葉に反応した俺は、つい「おかえり」と言いかけるが、直ぐに疑問が脳裏を過り、その言葉を途中で飲み込む。  ”ただいま”って、どういう事だ?  俺の家に帰って来る奴、誰かいたっけか?  危なく同居を認める言質をしてしまうところであったが、頭をフル回転させて記憶を探してみても、一人暮らしの我がアパートに帰って来る奴など俺以外に居ないはずである。  それにしても気になるのは昨日3カ月ぶりに長期出張で帰って来たばかりなのに、こんな絶妙過ぎるタイミングで現れたことである。  もしかして俺が忘れているだけで、出張に行く3カ月前に何かの約束をしていたのだろうか、お酒の席でとかで?  いや、元々アルコールが好きな方ではない俺は、この1~2年で酔うまで飲んだことなど一度もないはずだ。  まさか俺が記憶喪失になっているとか?  そんな状態だったら出張先であんなに順調に仕事が進まないだろうし、この長い出張を言い渡されたときの上司とのやり取りを、腹が立つほどにはっきりと覚えている訳がない。  じゃあ、一体誰なんだ??   俺の住む1DKの借り間は、アパートにありがちの細長い作りとなっており、玄関を入ると扉を挟んで直ぐが細長いダイニング兼キッチン、略してDKとなっている。  そして、その先が今俺が寛いでいる、リビング兼ベッドルーム兼書斎の何でも部屋の8畳間という作りである。    普通に考えてみると、今日現れたのは単なる偶然で、単なる間違いと言うのが一番有りそうな事ではある。  そうであるのなら、俺の居る部屋の方へと上がって来られる前に誤りに気付かせた方が良さそうである。  どうせ、アパートを間違えたとか、部屋を間違えたとかだろうし。
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