CHAPTER Ⅲ

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 大声に驚いたのか、リリィは肩をビクリとさせて振り返った。  エリックは両脚に渾身の力を入れて駆けだした。 「その扉を決して開けてはいけません」 「どうして? 兄さましかいないはずよ?」  エリックがリリィのもとにたどり着いた、その瞬間。 「どうしたんだい、リリィ」  扉を挟んだ向こう側から、やわらかい男性の声が聞こえてきた。  エリックはゾッとした。 ――。    リリィが返事をしようとしたので、エリックはとっさに口元を右手で塞いだ。  扉がガタガタと揺れだす。 「リリィ、開けてくれ。兄さんは今、両手が塞がっているんだ」  ガタガタ ガタガタ 「早くしてくれ、とても重たいんだ」  ガタガタ ガタガタ  ガタガタ ガタガタ 「早くしてくれ、リリィ」 「お嬢さま、耳を貸してはなりません」  リリィはただならぬ気配を感じ取ったのか、涙目になっている。  エリックはそっと、リリィの両耳を手で覆った。 「開けてくれ、リリィ。開けてくれ、リリィ。アケテクレ」  その言葉は、だんだんと、低くゆっくりな声に代わり、「開けてくれ」と繰り返した。 「アケテクレ、アケテクレ、アケテクレ」  恐怖で涙を流すリリィをギュッと抱きしめ、エリックは告げた。 「――お兄さまは、ずっと昔に亡くなっています」  リリィは肩を震わせて、「そうだったわね」と呟いた。  リリィの兄は、彼女が生まれる前に、戦争で命を落としたとエリックはカンバス卿から聞いていた。  そのため、リリィが兄を呼んでくると言ったとき、背筋が凍ったのだった。 「もう大丈夫よ」  小さなリリィは、涙目だった。 「エリック、助けてくれてありがとう」  リリィが微笑むと、エリックは再度意識を手放した。  
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